【GaullaCraft ガウラクラフトは、国内外で高評価を得ている、日本のハンドメイド釣具ブランドです。主に木を素材としたトップウォータールアーの品質を追求し、アングラーのニーズに応えるため、すべての製品は職人の手で丁寧に製作されています。】

『BUZZの歌を聴け』

朝の湖は、まだ夢の残滓を水面に漂わせているようだった。まだ世界が完全に目覚める前の、あの微妙な時間帯だった。

薄青い靄が静かに水面を包み、世界には僕とブラックバスと、そしてよく出来たバズベイトしか存在していないような気がした。僕はバズベイトを手に取り、その冷たい金属の感触を確かめる。それは、忘れかけていた古い記憶のかけら、あるいはこれから訪れる予感のようなものかもしれない。プロペラブレードが朝の光を受けて、まるで古いジャズレコードのレーベルみたいにきらりと光る。

バックキャストで竿を振り上げるとき、風が頬を軽く撫でていく。それは、昔付き合っていた女の子の指先の感触を思い出させた。

キャストする。バズベイトは弧を描いて飛び、やがて水面に吸い込まれるように着水すると、静寂が小さく破れる音がする。リールハンドルを回し始めると、あの独特な「キュルキュル」という音が生まれる。

それは、遠い昔に聴いた誰かの囁き声のようでもあり、あるいは僕自身の心の奥底から聞こえてくる沈黙の歌のようでもあった。

バズベイトのプロペラが水面をかき混ぜる音は妙に心地よかった。僕はその音を「水の上で回る小さな哲学」と呼んでいる。キャストするたびに、その哲学が湖の奥深くまで静かに染み込んでいく。

バズベイトを使う魅力は奇妙な期待感に満ちている。次の瞬間、暴力的なまでの爆発で水が割れるかもしれない。その一瞬を待つ時間は、好きなレコードの針が落ちる前の静寂に似ている。世界が深く息を吸い込んで、何かを待っているような感じだ。釣れなければ、それはそれで悪くない。

バイトは予告なしにやってくる。水面が突然炸裂し、まるで現実の表面に隠されていた別の次元が、一瞬だけ姿を現したかのようだ。その瞬間、僕とブラックバスは見えない糸で結ばれ、奇妙な踊りを踊ることになる。それは二人だけの、誰にも理解されない会話のようなものかもしれない。

釣り上げられたブラックバスの目は、いつも少し悲しげに見える。あるいは、ただ途方に暮れているだけなのかもしれない。

その目はいつだって僕の心を映す鏡のようだ。彼らもまたこの奇妙な世界の旅人なのだと思う。バズベイトとブラックバスと、ちいさな静寂。それらが織りなす朝の時間が、僕にとってはまるで人生の短編小説の一節のように感じられるのだ。

釣り上げたブラックバスを見つめるとき、僕はいつも少し申し訳ない気持ちになる。彼らの濡れた鱗は朝日を反射して、まるで海底で拾い集めた小さな宝石のように光る。そしてリリースの瞬間、彼らが水中に消えていく姿は、いつも僕達に何かを教えてくれる。それが何なのかは言葉にできないけれど、確実に僕達の中の何かを変えていく。